第二話 下界へ・・・
つばめたちは聖堂を出、ヘイムダルへと続くゲートへと向かった。

「セキレイ様から話は聞いている。付いて来い」

ゲートの目の前に居た兵士はつばめ達を先導し、青白い魔方陣へと誘導した。

「ヘイムダルへは通常飛んでいくのだが、お前達は特別だ。此処からヘイムダルへワープしろ」
「ありがとうございます」

つばめは兵士に軽く挨拶し、魔方陣の上に乗った。
すると、青白い光がつばめたちを包み、激しく輝いた瞬間、ヘイムダルへとつばめたちはワープした。ヘイムダルは悪魔の町と言うだけあり、セイブライトとは反対の黒い雲の絨毯がヘイムダルの地面だ。空は夜と言うよりは曇りの日に近いような薄暗く、漆黒の雲が空に浮かんでいた。つばめたちは見慣れた光景なのか大して驚いたような顔は見せず、平然と聖堂への道を歩いた。

ヘイムダルの聖堂はセイブライトの聖堂とは変わりはほとんどなく、変わっているところは、兵士が天使ではなく、悪魔であると言う事ぐらいか・・・・
つばめたちは額に赤いオーブのような物が有るのが特徴の大悪魔である。ハヤブサは悪魔としての力は尋常ではなく、セキレイですら比にならないと言われている。

「おっす!久しぶりだな!つばめ、すずめ」

まるで昔の友達と話をするかのような軽い調子でつばめたちに話しかける。
「言われたとおり付いていく事にしました」
普段とは違い、いきなり礼儀正しくなるイスカ。

「おう、悪魔の名に恥じない働きをしてくるんだぞ」
「はい」
「あ・・・あの・・」
つばめがイスカとの話が終わったのを見計らって声を掛ける。

「つばめ、もし悪魔になったとしても面倒見てやるから気にすんな」
つばめが言い切らないうちに、ハヤブサが事を推測してつばめに言うが・・・
「この体質は治して見せます。私は天使で居続けて見せます!」
ハヤブサが考えた事とは正反対の事をつばめに言われてしまい、少し後頭部等辺を掻く。

「行って来い」
さっきまでとは違い、真剣な顔をしてつばめを激励する。

「はい!」

「先ずはオレの家へ寄ってくれよ、旅の道具一式そろってるから」
イスカが突然つばめに話しかける。
「ありがとう。イスカ」
「イスカにしては気が効いてるじゃない」
つばめが礼を言い、すずめが少しからかう。
「るっせい」

つばめたちはハヤブサに別れを告げ、イスカの家へと向かった。
イスカの家は聖堂からそれほど遠くないところにある。
二〜三分有ればイスカの家へ着く。

「出発は明日だ。ベッドは二つあるからお前ら使え」
「イスカは?」
「オレは夜明けを待つ」
イスカはつばめの質問に軽く答え、物置へと向かう。そして、物置から何かを取り出すと、つばめに渡す。
「旅の道具はお前に渡しとく」

ポーション、パヒューム、トニックと図鑑をイスカはつばめに渡した。

「イスカ。ありがと」
すずめは軽くイスカに向かって礼をいい、寝る支度をする。
つばめは寝る前に一声掛けようとイスカの元へ行き、話しかける。

「お前も早く寝ろ、朝は早い」
ぶっきらぼうにつばめに言うイスカ。
「イスカ、もしかして私たちの事気遣ってくれたの?」

「はぁ!?」

つばめの質問に少し大げさな態度でつばめに返す。

「悪魔は夜明けが苦手。なのに出発が夜明けって・・・」
「!!」
少し図星を突かれたのか目を見開き、大げさな表情を見せる。だが、直ぐに元の顔に戻り、つばめに言う

「フン。気まぐれなんだよ、オレは」
「お休みイスカ」
イスカに笑顔で挨拶をする。
「おう」

ぶっきらぼうなのは相変わらずだが、背を向けたまま、つばめに言った。
今度はすずめの元へ行き、声を掛ける。

「早く寝なさいよつばめ。明日は早いのよ?」
「すずめは?」
イスカと似たような事を言うすずめに少しおかしな雰囲気に襲われたが、直ぐに質問を返す。
「そうね、つばめが寝たのを見たら、私も寝ようかしら・・・」
「もぉーまた子ども扱い!」
「ごめんごめん」

まるで姉妹の様な会話をする二人。
「すずめのそういうところ好きだよ。すずめは私の姉のような存在だから」
「ありがとう。さ、早く寝なさいよ」
「うん」

「つばめ!」

突然、すずめはつばめを呼ぶ。

「明日から頑張りなさいよ。私も出来るだけサポートするから」

すずめの言葉に精一杯の笑顔で返すつばめ。
そして、つばめはベッドへと向かった。

「神様。どうかうまくいきますように」

神に願いを込め、寝る。


――ヘイムダルの夜は月が綺麗だ。
月に一度だけ出る満月は、溜息が出るほどの美しさらしい。
静まり返った夜、聖堂の中で一人の大悪魔が目を覚ました。

「セキレイか?出て来いよ」

誰も居ないはずの空間に向かってハヤブサは声を掛ける。
そして、一瞬の煌く光と共に、ハヤブサの目の前に現れるセキレイ。

「ほう、相変わらず勘は鋭いな・・・」
夜の聖堂に似合わない輝くような白い翼を持った大天使、セキレイ。
「なんだ?オレ様に夜這いか?言ってくれればいつだって・・・」
冗談なのか、半分笑いながらセキレイに言う。

「寝言は寝て言え・・・」
「ハハハ。冗談だよ・・・で、何か用か?」

ハヤブサが聴いた瞬間に、セキレイはハヤブサの目の前から一瞬で消え、ハヤブサの首元に剣を突きつけていた。ハヤブサは余裕なのか、セキレイの剣幕に驚きもせず、眼を細め、少し真剣な表情でセキレイを見ていた。

「貴様・・何故あいつを同行させた!?」
「イスカの事か?」
「答えろ、返答によってはハヤブサ言えども殺すぞ!」

セキレイの剣幕はオーラのように段々と強くなっていった。

「イスカを連れて行かせたのは、失敗に導くためではなかろうな!?」
「オレを信じろよ・・・アイツが俺たちの話を盗み聞きしてたんだよ」
「アイツが行くっつーもんだから行かせただけだ」
「なに、イスカが!?」

意外な返答に確認のためかもう一回言うセキレイ。

「アイツなら絶対成功させてくれるぜ・・・」
ハヤブサは嬉しそうにセキレイに言う。
「お前がそこまで成功を祈るなんて、何処かに頭を打ち付けたか?」

「いくら、ヘイムダルの人口が減ってきたからって、つばめを悪魔にする気はねぇーよ」
「アイツは天使で居る。それが一番幸せなことだろうからな・・・」
「ふ・・・貴様にしては言い返答だ・・・アイツの事でも思い出したか?」

セキレイは誰かは不明な人物の事を言った。

「ばーか。誰がアイツの事なんて思うかよ・・・」
「ところで・・・首にある剣を締まってくれねーかな?」
首元に鈍く光る鋭い剣を指差しながら、セキレイに請う。
「すまないな・・・」
軽く謝り、剣をしまう。

「まぁ、良い。私は帰るぞ・・・」

ハヤブサに背を向け、聖堂の長い廊下を歩き始める。

「セキレイ。少しは付き合えよ・・・月だってまだあんなに綺麗じゃねえか・・・」

セキレイはハヤブサの言葉を受け、少し止まる。

「良かろう・・・付き合ってやろう」

聖堂の上では綺麗な三日月が天界を見下ろしていた・・・・
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