片翼の天使 プロローグ
天界には三種類の生き物が居る。
セイブライトに住む羽が白い天使。
ヘイムダルに住む羽が黒い悪魔。
天使と悪魔の間柄、または極稀に生まれる混血種。
天使と悪魔の間柄から生まれたものはハーフ体と呼ばれ裁かれる運命にあるが、混血種については裁かれる事は無い。
混血種はたとえ両親が同種族でも生まれてしまうことがある。
ハーフ体と混血種の特徴としては、感情的になると天使は悪魔に、悪魔は天使へと一時的に変化を遂げる。
セイブライトは明るい緑色の髪を持つ大天使。セキレイが治め、ヘイムダルは額に赤いオーブのようなものが有るのが特徴の大悪魔。ハヤブサが治めている。
二つの国は争う事も無く、仲は良い方である。
この物語は、混血種である天使。つばめが下界で輝石を探す厳しくも長い道のりを描いたものである。
第一話 旅立ち
朝。
輝かしい太陽が天界を包み込む。
雲のような白い絨毯がセイブライトでの地面だ。
人間が見れば目がチカチカしそうなぐらい白に覆われている絨毯を一人の少女が歩いていた。
髪は紫のショートカット。薄い紫のワンピースを着ていて年は16ぐらいだろうか?
少女はしばらく歩いていくと、今度は違う声が遠くから呼びかけてきた。
「つばめ〜おはよう!」
つばめと呼ばれた天使はその声が聞こえてきた方向に方向を変え、声の主に返した。
「おはよう!すずめ!」
すずめと呼ばれた天使は蒼色の長髪。紺色のとっくりのような物を着ていて下は黒のスカートをはいていた。
年齢はつばめよりは少し上だろう。少し大人びていて、落ち着いた顔つきだった。
すずめはしばらく飛んでいたが、つばめの横に着地した後直ぐにまた別の声が聞こえてきた。
「よお。元気か?悪魔・つばめ君!」
その声を聞いたつばめは目の色を変えて怒った。
「な・・なんですって〜!」
その途端につばめの羽の色と服の色が漆黒に変化し、天使特有の光輪も消え、悪魔のような触角が二本に変わっていた。
「つ・・つばめ」
つばめが悪魔へと変化したのを一瞬驚くすずめ。それと同時にこちらへと飛んでくる悪魔の姿が見えた。
「ほーら怒ると悪魔になる。俺らと一緒の黒い羽。ギャハハハハ」
黒い悪魔の少年はつばめが悪魔に変化したのをからかいながら面白そうに笑っている。
「つばめもね、落ち着いて」
悪魔となったつばめを冷静に戻そうとすずめは和やかな言葉をつばめに掛ける。
しばらく微笑んでいたすずめの顔が怒った顔へと変わり、すずめの大きく蒼色に光る瞳を見る事が出来た。
しかし、その瞳の奥で静かな怒りが点っていたのは気のせいだろうか・・・
「いい加減にしなさいよ!イスカ!」
すずめはイスカと呼んだ悪魔の少年に向かって怒鳴った。
「るっせーやい」
イスカはすずめの声を軽く流した。
だが、今度はつばめが目を見開きイスカに向かって怒鳴った。
つばめの目の色は髪の色と同じ大きな紫色だった。
「イスカなんて大っ嫌い!私のこういう体質バカにしてるんでしょ!」
「ば・・・バカにはしてねぇよ」
つばめに本気で怒鳴られ、少ししょげるイスカ。
三人が喧嘩していると、後ろから鎧を全身に着たセイブライトの兵士と言うべき人がつばめに話しかけてきた。
「おい、つばめ、すずめ。セキレイ様がお呼びだ。早く行け」
セキレイの言葉に落ち着きを取り戻したのか、つばめは紫色のローブに白い羽。と言う天使の体に戻った。
「セキレイ様が?」
「私も・・・?」
つばめとすずめは少し驚いた顔をしながら兵士の言葉を聴いた。
「・・・」
イスカは何か言いたそうな顔をしていた。
一瞬の静寂の後、イスカが口を開いた。
「おい、オレは行っちゃだめなのか?」
「お前は関係ないだろう。さ、早く行け」
イスカの言葉もむなしく、兵士に軽くあしらわれてしまったイスカは、気分を害し何処かへ飛んで行ってしまった。
兵士の後へ付いていった二人は、聖堂へと入っていった。
聖堂とはセイブライトを治める大天使。セキレイが住む場所で特別な用が無いものは入れない事になっている。
聖堂はとても巨大な建物で出来ている。
つばめとすずめは兵士に連れられ、セキレイの前へ出た。
「来たか。つばめ、すずめ」
明るい緑色の長髪が特徴的で普通の天使とは違い、羽が六枚ある大天使。セキレイは少々威圧感がある人物だった。
白く長いローブを身に纏ったセキレイは二人に会うと少し笑みを浮かべた。
「何か御用でしたか。セキレイ様」
セキレイ独特のオーラのためか、つばめは少し堅くなっていた。
つばめが堅くなっているのに気づいたセキレイは微笑みながら行った。
「堅くなるな、つばめ」
だが、セキレイの微笑みは直ぐに消えうせ、真剣な顔になったセキレイは、深刻な声でつばめに聞いた。
「つばめ。お前の悪魔になる体質なんだが、まだ直っていないんだよな?」
「は、はい・・・」
未だにつばめの緊張は解けていないようだ。
堅くなりながらも、つばめはセキレイの問いに答える。
「今日は何度悪魔になった?」
「今日は一度だけです」
セキレイの問いに今度はすずめが答える。
「そうか・・・」
更に深刻な顔へと変化する。
その異変に気づいたつばめはセキレイの名前を呼ぶ。
「あ・・あの・・・セキレイ様?」
「・・・とても言いにくいのだがな、つばめ。お前のその体質・・・このままいつまでもこの状態が続くと・・・」
一瞬の静寂の後、セキレイは目を閉じ、つばめに言った。
「お前は元の姿を忘れ、完全な悪魔となってしまう・・・」
つばめは一瞬セキレイの放った言葉が信じられず、セキレイに問い返した。
「悪魔・・・に・・?ご、ご冗談を・・・」
「本当だ。お前は現状唯一人だけ、悪魔の血が混ざっている天使だ。 ・・・だから私も心配なのだ」
嘘だと願うつばめの希望も空しく崩れ去る。唯一つの言葉によって。
「悪魔になんてなりたくないのだよな? その体質で悪魔になる事も、心苦しい、そうだろう?」
「は・・・はい」
「私はどうしたら・・・うっ」
セキレイの慈悲の言葉に心の奥底から浮かび上がる涙という悲しみの結晶。
大きく輝く紫色の目に薄らと水分が溜まる。
「泣かないで。つばめ!」
其れを慰めようとするすずめ。
「すずめ・・・」
まだ涙が止められない。だが、すずめの言葉はもっと心に響く。
「探そう。つばめの体質が直る術を・・・」
優しく、慰めながら、提案をする。
たとえ、そんな方法が皆無だったとしても・・・・
「うむ、私もそのほうが良いとお思う。つばめ、良い仲間を持ったな・・・」
少しだが、セキレイの顔が緩んできた。
「セキレイ様。つばめの体質を直す・・・そんな事が出来るのでしょうか・・・?」
真剣な眼差しでセキレイに問うすずめ。
つばめを悪魔になんて生らしたくないのだろう。
絆・・・
そう呼ばれるものなんだろうな・・・・
セキレイはそんな事を心の中で考えながらも、すずめの問いに答えた。
「ああ、一つだけ方法があるんだ
下界には"天使の輝石"と呼ばれるものがあり、其れさえ見つかれば体質は直る
私も何度か試みたのだがな・・・何の情報も無くてすまんな・・・」
セキレイはすまなそうな顔をしながら、二人にわびる。
「セキレイ様が謝られる事はありません!」
一筋の希望を見つけたためか、つばめは心の闇を振り払い、セキレイに向かって力強く言った。
「危険は伴う。本当に行くならば下界に行く許可を与える。」
「行きます!私は天使で居たいんです!」
「私も付いていきます!つばめは天使です!悪魔ではありません!」
セキレイの問いに二人は力強く答える。
「そうか・・・ならば、二人に・・・」
セキレイが皆まで言おうとした瞬間。
聖堂の天井が抜け、黒い物体が、天井から落ちてきた。
「イテテ・・・落っこちちまった」
腕などの部分を押さえながら、声を発する黒い物体・・・其れは・・・
「イスカ!?」
驚愕の声を上げながら黒い物体を見る。
「また貴様か・・・聖堂に乗り込むとは良い度胸だな・・・」
半分呆れながらイスカに向かって言葉を放つ。
「フンッ。頼まれたんだよ!ハヤブサ様になぁ!」
呆れ具合のセキレイに向かって少し大きな声で声を発するイスカ・・・
「なに、ハヤブサが!?」
少し意外なところを突かれたのか、セキレイが驚く。
「セキレイ様が輝石の事をハヤブサ様に話したから、どうせつばめの事だろうとあおられたんだよ」
「下界は危険だから、幼馴染のオレも付いていけって言われたんだよ」
少し納得したのか、今度はセキレイがつばめたちに聞く。
「そうか・・・ハヤブサが・・・どうだ、つばめ」
「イスカは嫌いだけど、でも頼りになります。イスカも一緒にお願いします」
少し真面目にセキレイに言う。
「・・・・・・」
何かを心に決めているのか、イスカは少し沈黙した。
「充分気をつけろ。危なくなったら直ぐに戻って来い」
セキレイの顔に笑顔が戻り、つばめたちに言う。
「はい」
「おい、つばめ。ハヤブサ様にも挨拶していけよ」
「判ってる」
そして、つばめはすずめとイスカを連れ、ヘイムダルへと向かった。 |